大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 平成10年(ツ)15号 判決 1999年5月24日

上告人 株式会社 アプラス

右代表者代表取締役 石合正和

右訴訟代理人弁護士 氏原瑞穂

被上告人 A野太郎

主文

一  原判決主文第一ないし三項を次のとおり変更する。

1  第一審判決主文第一、二項を次のとおり変更する。

2  被上告人は、上告人に対し、金一〇一万七八二二円及びこれに対する平成九年一〇月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人氏原瑞穂の上告理由について

一  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  上告人は、割賦購入あっせん及び信用保証を業とする株式会社である。

2  被上告人は、販売業者オートクラブ高須(以下「高須」という。)から自動車を購入する資金として、平成九年五月三一日、明治生命保険相互会社(以下「明治生命」という。)から、次の約定で金員を借り受けた(以下「本件消費貸借」という。)。

(一)  金額 一〇四万八二四〇円

(二)  利息 五万一二九〇円

(三)  遅延損害金 年一四・六パーセント

(四)  弁済方法 右元利金一〇九万九五三〇円を平成九年六月から平成一二年五月まで毎月二七日限り三万〇五〇〇円(ただし、初回は三万二〇三〇円)宛、元利金の受領を明治生命から委任された上告人に支払う。

(五)  特約 被上告人が右分割金の支払を怠り、明治生命から取立てを委任された上告人から二〇日以上の相当な期間を定めてその支払を書面で催告されたにもかかわらずその支払をしないときは、期限の利益を失う。

3  上告人は、平成九年五月三一日、被上告人との間で、次の約定による保証委託契約(以下「本件保証委託」という。)を結び、これに基づき、同日、明治生命に対し、被上告人の本件消費貸借による債務につき連帯保証した。

(一)  上告人は、被上告人を代理して明治生命から右借受金を受領した上、そのうち、一四万八二四〇円を保証委託手数料として取得し、残余の九〇万円を被上告人が購入した自動車の代金として高須に支払う。

(二)  上告人が保証債務の履行として明治生命に対し本件消費貸借による債務を代位弁済したときは、被上告人は、上告人に対し、その弁済額及びこれに対する代位弁済日の翌日から支払済みまで年六パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

4  上告人は、右3(一)の約定に従い、借受金を受領して、手数料を取得するとともに、平成九年六月六日、高須への支払をした。

5  上告人は、被上告人に対し、平成九年九月三日到達の書面で、支払期の過ぎた元利金を二〇日以内に支払うよう催告した(以下「本件催告」という。)。

6  上告人は、被上告人が本件催告にもかかわらず支払をしなかったため、平成九年九月三〇日、明治生命に対し、未経過利息金四万〇六五七円を控除した一〇一万七八二二円を代位弁済した。

7  なお、本件訴状は、平成一〇年四月六日被上告人に送達された。

二  本件は、上告人が、右1ないし6の事実関係に基づいて、被上告人に対し、代位弁済額一〇一万七八二二円及びこれに対する代位弁済日の翌日である平成九年一〇月一日から支払済みまで年六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求めた事案であって、第一審が、本件催告は明治生命と被上告人との関係で期限の利益を失わせるものにすぎず、代位弁済による被上告人の上告人に対する求償債務については、更に、割賦販売法(以下「法」という。)三〇条の六により準用される同法五条による催告をしなければ期限の利益は失われない旨判示して、上告人の請求を口頭弁論終結時において弁済期の到来している割賦金の額の限度でのみ認容し、その余を棄却したのに対し、上告人が控訴し、本件については法三〇条の六により準用される法五条は適用されない、仮に適用されるとしても、本件催告は明治生命のためのものと上告人のためのものとの両性質を併有している(催告の併存)というべきであり、そうでないとしても、本件催告は代位弁済前にされているから代位弁済によって上告人の求償債権について催告が擬制され代位弁済日の翌日から二〇日を経過した日に期限の利益を喪失する(催告の追完)というべきである、と主張したところ、原審は、次のとおり判示し、一〇一万七八二二円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日より二〇日間を経過した平成一〇年四月二七日から支払済みまで年六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し、その余の部分、すなわち、一〇一万七八二二円に対する平成九年一〇月一日から平成一〇年四月二六日までの遅延損害金請求を棄却した。

1  本件における被上告人(購入者)、上告人(信販会社)及び明治生命(金融機関)の関係は、いわゆる保証委託型クレジットと解される。保証委託型クレジットは、購入者が信販会社の連帯保証のもとに金融機関から金銭を借り受け、これを割賦弁済するという基本構造を有するものであるから、その形式だけに着目すれば、単なる金銭消費貸借であって、割賦購入あっせん(法二条三項)ではなく、売買契約と金銭消費貸借を基本構造としたローン提携販売(法二条二項)の一種(信販会社介在型のローン提携販売)のようにも思われる。しかし、ローン提携販売と割賦購入あっせんの違いは、前者では最終的な信用供与者は金融機関であるのに対し、後者では、信販会社が介在する結果、購入者の不払の危険を信販会社(割賦購入あっせん業者)が負担するので、最終的な信用供与者は信販会社であること、すなわち信用供与者が異なる点にあるところ、保証委託型クレジットにおける最終的な信用供与者を検討すると、購入者が返済しない場合の危険は連帯保証人である信販会社が負担しており、また、販売業者への代金の交付と購入者からの返済金の受領も信販会社が行っているのであって、このことは、信販会社が実質的かつ最終的な信用供与者として取引の成立に関与していることを示しているものであり、保証委託型クレジットは、個品割賦購入あっせんの典型である立替払契約によく似ている。このような経済的実質に着目すれば、保証委託型クレジットは、個品割賦購入あっせんに準じるものとして、法三〇条の六により準用される法五条の類推適用を受けると解するのが相当である。

2  本件保証委託につき法五条が類推適用される結果、これに基づく被上告人の上告人に対する求償債務について期限の利益を失わせるためには、更に催告が必要となる。すなわち、本件催告は、本件消費貸借に基づく被上告人の明治生命に対する債務につき期限の利益を喪失させるためのものであり、その時点で遅滞に陥っている債務(割賦金債務のうち弁済期が到来した分)の履行を催告するものであり(この時点では後記の求償債務はまだ発生していない。)、このほかに、上告人は、連帯保証人として明治生命に対し本件催告による期限の利益喪失後の残債務を代位弁済したことにより、本件保証委託に基づいて発生した右求償債務について期限の利益を喪失させるため、購入者保護の観点から期限の利益喪失の要件を加重している法五条に基づいて、被上告人に対し、二〇日以上の期間を定めて書面により催告をしなければならない。このように、両催告は、その対象である債務が異なっており、特に、本件催告の時点においては、更に行うべき催告の対象である求償債務がまだ発生していないことにかんがみれば、上告人主張のように本件催告が求償債務についての催告を兼ねるということはできない。

3  本件催告後に上告人の明治生命に対する代位弁済がされても、これによって、本件催告の対象となった債務(前記割賦金債務の遅滞分)が当事者を異にする求償債務に変わるものではないから、本件催告が求償債務についての催告に転じるということはできない。

4  本件では、本訴請求に係る訴状が平成一〇年四月六日に被上告人に対して送達されており、これによって、前記求償債務につき法五条による催告があったとみることができるから、被上告人は、右送達の日の翌日から二〇日間を経過した同月二六日をもって、前記求償債務全部について期限の利益を喪失したものと解される。

三  しかしながら、原審の右二の1の判断は是認することができるが、その余の判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

1  法二条三項二号所定の割賦購入あっせんは、「証票等を利用することなく、特定の販売業者が行う購入者への指定商品の販売を条件として、その代金の全部又は一部に相当する金額を当該販売業者に交付し、当該購入者から二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して当該金額を受領すること。」(立替払契約)であるところ、本件各契約は、法形式上、購入者である被上告人が金融機関である明治生命から自動車の購入資金を借り受け、信販会社である上告人が被上告人との間の保証委託契約に基づき右借受金債務を連帯保証したものであって、この点のみに着目すれば、単なる自動車購入資金に係る金銭消費貸借契約及びこれについての連帯保証契約にすぎず、法の予定する割賦購入あっせんに該当しないといえなくはない。しかし、前記の事実関係によれば、信販会社である上告人は、購入者である被上告人からの委任の下に、金融機関である明治生命から自動車購入代金及び上告人の取得すべき保証委託手数料相当額の貸付金を受領し、手数料分を取得してその余の代金分を販売業者である高須に交付するとともに、明治生命からの委任の下に、被上告人から明治生命への割賦弁済金を受領する関係にあり、また、被上告人が明治生命に対する借受金債務の履行を怠った場合には、上告人が連帯保証人として明治生命に代位弁済することとされ、上告人において最終的な債権回収の責任を負担することが当然に予定されているから、そこにみられる経済的実質に照らすと、本件各契約は、法二条三項二号所定の割賦購入あっせん(立替払契約)と極めて類似しており、実質的にはこれと異なるところはないものといえる。したがって、本件各契約は、法二条三項二号所定の割賦購入あっせんに該当し、法三〇条の六により準用される法五条の適用を受けるものと解するのが相当であって、この点に関する原審の判断は是認することができる。

2  しかしながら、本件各契約と右準用規定により要求される催告について考えてみると、まず、本件各契約が、法二条三項二号所定の割賦購入あっせん(立替払契約)に該当し、法三〇条の六により準用される法五条の適用を受けるということは、信販会社である上告人が、購入者である被上告人の金融機関である明治生命に対する本件消費貸借による債務を代位弁済し、被上告人に対して、同債務のうち約定弁済期未到来の分に係るものについても求償権を行使するためには、右準用規定により被上告人に対する催告を必要とすることを意味するものであるところ、本件各契約では、催告を要せず期限の利益を喪失するというのではなく、明治生命と被上告人間の本件消費貸借との関係においてではあるけれども、明治生命から取立てを委任された上告人から被上告人に対し、法五条によって要求されている二〇日以上の相当な期間を定めた催告をすることが約定されており、その約定に従った本件催告がされている。そして、本件各契約が右のとおり割賦購入あっせんに該当するという根拠は、信販会社である上告人において最終的な債権回収の責任を負担することが当然に予定されていることなどの経済的実質に照らし、本件各契約が立替払契約たる割賦購入あっせんと極めて類似しており、実質的にはこれと異なるところはないものといえること、換言すれば、本件各契約の実質は、上告人と明治生命が一体となって信販会社の立場に立ち、これと購入者である被上告人及び販売業者である高須との間で締結された立替払契約にほかならないというところにあるから、本件催告は、実質上、右の立替払契約についての信販会社である上告人(明治生命)から購入者である被上告人に対する法五条所定の催告に該当するとみることができる。また、本件と類似する契約としては、金融機関と購入者との消費貸借の関係では、分割弁済を怠った場合には催告を要せず当然に期限の利益を失う旨特約し、信販会社と購入者との保証委託の関係では、右の場合に信販会社が法五条に則った催告をして不払の場合には、購入者は信販会社に対し、信販会社が代位弁済した額及びこれに対する代位弁済日の翌日以降の遅延損害金を支払う旨約定して、一回の催告で足りることとする形式のものがあり、この形式の契約は、右消費貸借について法の適用がないことから、何ら問題のないものであるところ、これと本件各契約とは、前者は保証委託の関係で催告し、後者は消費貸借の関係で催告するという形式的な相違はあるけれども、両契約をそれぞれ一体として観察すれば、実質的な相違があるとは認め難い。更に、右準用規定は、当事者間で定める期限の利益喪失約款の効力に制限を加え、例えば、購入者が約定支払期限を一日でも徒過したときには当然に期限の利益を失い、未払額全部について即時の支払義務を負わせるような購入者にとって過酷な約款を認めないこととし、購入者の利益を保護するものであると解せられるが、本件各契約の実質が右のとおりの立替払契約であることからすれば、実質的には、本件消費貸借による貸付金は信販会社である上告人が購入者である被上告人のために販売業者である高須に交付した立替払金であり、本件消費貸借に基づく被上告人の弁済は右立替金の返還というべきであるから、被上告人の保護、すなわち期限の利益喪失を免れる機会の確保としては、本件催告だけで十分であるというべきであり、原審のように更に催告を要求すべき実質的理由は見出し難く、これを要求することは、むしろ過保護となり、信販会社に無用の不利益を被らせるものといわざるを得ない。

これらの点を総合して判断すれば、本件催告は、その実質において上告人が行う法三〇条の二第五項二号の支払分、すなわち被上告人の上告人に対する立替払金返還債務の弁済期到来分の支払の催告と異なるものではないから、本件各契約についての前記準用規定による催告としては、本件催告をもって足り、上告人が代位弁済した後に被上告人に対する求償金債権行使のため改めて催告する必要はなく、その求償金債権について代位弁済日の翌日から遅延損害金を支払う旨の約定も、前記準用規定に反するものとしてその効力が否定されるものではないと解するのが相当である(原審は、一方において、実質的な解釈をしながら、他方において、右解釈と密接に関連する事項であるにもかかわらず、極めて形式的な解釈をしているものであって、首尾一貫せず、到底同調することができない。)。

3  そうすると、前記のとおり上告人の本訴請求の一部を棄却すべきものとした原審の判断には、法三〇条の六により準用される法五条の解釈適用を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をもいうものと認められる論旨は理由があり、右棄却に係る請求をも認容すべきである。

四  よって、原判決を主文第一項のとおり変更することとし、民事訴訟法三二五条一項、三二六条、六七条二項、六一条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 田中俊次 村上亮二)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例